私オカマでした(15)

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はーい!シゲちゃんでーす。

 今回は「私オカマでした」の15話目っす。仕事先の方から「ねえシゲちゃんさあ、オカマの話やめたの?オレ見てんだよね。はえーとこ頼むよ。」という嬉しいリクエストをいただきました。つか何でバレたんだろ?同じ飲み屋さんに行ってるから誰かに聞いたのかも。ま、それはいいとしてだいぶ間があいたっすね。

■ テレビ局の人がきた

 新宿ゴールデン街の一角にある小さなオネエ系のお店「ナイトビーンズ」。秋風が吹き、大活躍していたエアコンも存在価値を失いかけていた。ママの過去を聞いた私は多少の感情移入をしながらも今夜の準備を始めていた。

ジェイソン「ねぇ、オニイチャン、ママと何話してたの?」
シゲ「あぁ、なんていうか・・ママの昔話をちらっと聞いてたんす。」
ジェイソン「ママね、私たちにはそーゆー話しないのよ。」
シゲ「そーなんすか?じゃあ余計黙ってないと・・。」

 意外だった。同じ仲間なのに話していないなんて。でも人それぞれ事情があるんだろうから、あまり深入りしない方がよさそうだ。考えてみればジェイソンさんやゴルゴさんにだって聞きたいことはいくらでも浮かぶわけで。まだオカマってものが社会から特別な目で見られていた時代に、何故この道を選んだのか?それに将来のことを考えているのだろうか?この先ずっとオカマやってくんだろうか?

ジリリリリーン・・・ジリリリーン。

電話が鳴った。その黒い電話はピンクのカバーでくるまれていて、なぜかウサギの耳がついている。

ママ「はい、ナイトビーンズで・・。はい・・あら鈴木様、はい。」

ゴルゴさん「予約の電話かしらね。」
ジェイソンさん「団体だといいね。」

ママ「ねぇ、先週来られた鈴木さんよ。テレビ局の人を連れてってもいいかだって!」
ママが見たこともないようなはしゃいだ顔をしている。

ジェイソン「ウッソー、ねえねえ化粧しなおしたほーがいい?」
ゴルゴ「あんたバカねぇ、まだキャメラ(カメラ)が来ると決まったわけじゃないでしょ。」
ママ「近いうちに取材も考えてるそーよ。どーしましょ。」
ジェイソン「じゃ今日は下見ってことね。キャーッ!」
ママ「私、トイレ掃除しなおしてくるわね、ちょっとお願いね。」

 店は台風でも来るような騒ぎになった。私は得意のバゲットサンドの準備をはじめた。テレビ局?どーせ最近流行の風俗レポートみたいなもんだろ。ったくバカにしやがって。でも私も全国区のテレビに出たりすんのかなと、まんざらでもなくウキウキしはじめていた。

それから20分後だった。

カランカラーン・・。

ドアが開いて不動産屋の鈴木さんが立っていた。まだ2回目で遠慮がちな様子だ。

ゴルゴ・ジェイソン「いらっしゃいまほー!」
鈴木「ああ・・こんばんわ・・あの・・電話したのですが・・ママは?」
ゴルゴ「はい、ただいま・・ママ~テレビ・・じゃない鈴木さまご来店ですぅ。」
ママ「はーい、お待ちしておりましたぁ。どーぞどーぞ。」
鈴木「あの全部で5名ですが・・・。」
ママ「はい、用意しております。ささ、奥のボックスへどーぞ。」

 みんな満面の笑みでお出迎えのようだ。私もちらっと様子をうかがった。鈴木さん以外は皆Tシャツかウィンドブレーカというラフなスタイルだ。学生じゃないの?っていう感じの若い人もいた。Tシャツに「ASAHI」の文字が見えた。テレ朝だ。ということは?「トゥナイト」かも。山本監督が来るのか?スゲー・・。

ママ「おビール3本にグラス6個ねぇ。なんとかサンドも準備してね!」
ゴルゴ「はーい、ただいまぁ。」

 冷たいオシボリを出しているゴルゴさんの鼻息がいつもより荒い。緊張しているのだろうか。ジェイソンさんはむりやり狭い厨房に入ってきて化粧をはじめた。なんだろう、この異様な雰囲気は。テレビ全盛の時代だったからかもしれない。ボックスからカンパイ!の声がした。カメラ担当の人がカシャッカシャと音をたてて写真を撮っている。しばらく談笑が続いた。取材交渉にしてはずいぶん派手だ。経費で落とすっていうやつだろう。高級なボトルも入れてくれた。

 さてバゲットサンドが完成した。ジェイソンさんがトレイにのせて腰をくねらせながらボックス席へ運んでいった。反応が楽しみだ。

取材A「おぉお、こんなのできるんだね。こりゃいいわ。」
鈴 木「でしょう?これがうまいんですよ。ねぇママ。」
マ マ「おかげさまで評判いいんですよ。」
取材B「ホント美味しいすよ。でも本格的ですね。」
取材C「これは絵になるね。写真もう一枚とるよ。」

 予想以上の反応に私も満足だった。時間は8時半を過ぎて客が入り始めた。9時前には満員になった。ゴルゴさんたちはショウタイムの準備を始めた。私もバンダナを頭に巻いた海賊みたいな格好で奮闘した。厨房とカウンターを行ったりきたり。お客のOLさんたちと会話をしながらも汗だくで動き回った。

トイレから戻った鈴木さんがカウンター側へ歩いてきた。

鈴木「オニイチャンだっけ?チップだ、取っておいて。ありがとね。」
シゲ「え?それは困ります。ママに渡してもらえますか?」
鈴木「いやね、朝日放送の人たちでね。ウチの大事な顧客でもあるんだ。」
シゲ「はぁ・・。」

準備よく熨斗袋(のしぶくろ)に入れられたチップをとりあえず受け取った。

鈴木「取材が決まればこの店にもボクにもすごいチャンスなんだよ。」
シゲ「はい、なんでも言ってください、鈴木様!」

 鈴木さんの顔は紅潮して迫力があった。チャンスか・・なんだかわかんないけどチャンスなんだろう。でもチップもらうのなんて生まれて初めてのことだ。いくら入ってんだろ? 開けて見るヒマもなくお客さんのオーダーに奔走した。

 気がつけば時計は10時を廻り、恒例の「ショウタイム」が始まった。ピンクレディのペッパー警部が鳴り始め、店内は拍手と笑いの渦(うず)に包まれた。この高揚感がいい。商売繁盛で笹もってこい!だ。

熱かった時間も過ぎお客は笑顔で帰っていった。

閉店後、ママはカウンター席に座っていただいた名刺をながめていた。

ママ「月末に取材にきてくださるのよ。テレビで放送するんだそうよ。」
ジェイソン「有名人くるの?」
ママ「カントクって言ってたわよ、知ってる?」
ゴルゴ「トゥナイトでしょ?時間が時間だからあまり見てないけど人気番組よ。」
シゲ「まだ新番組っすけど、面白いって仲間内じゃ評判っすね。

ジェイソン「ママ、どーしよう。ウチの母親が見たらきっと泣くわ。」
ゴルゴ「あんた、その顔で誰が息子だと思うってのよ。」
ママ「そーね、オホホホホホ。」
ジェイソン「そっか、わかんないわよね。安心した。」

シゲ「山本晋也監督っすよ。「スゴイですねぇ~。」で有名な人っすよ。」
ママ「そのまんまでいくからね。変な準備はしないから。」
ゴルゴ「そうそう普段のままがいいのよ。」
ジェイソン「そっか、それでいいのだぁ!」

 その日の売り上げは100万円を超えた。バブルの夜明け間近だったのだろう。とにかくすごかった。鈴木さんにもらったチップをママに渡そうとしたのだが、「ご好意はいただきなさい。今後鈴木さまには誠意を持って応対してね。あなたには感謝しているわよ。なんだか運が向いてきたみたい。」そう言って受け取らなかった。中には1万円が入っていた。厨房のバイトがこんなチップをもらうなんて、今では考えられない。

時代は大きく動いていた。
ではまた。

追記)参考までに1980年の経済動向 右肩上がりが継続して1988年頃まで続く。1万円以下だった日経平均株価はおよそ8年で4倍以上にまで跳ね上がる。これが世に言う「バブル景気」だったのは言うまでもない。この年、広島カープが優勝している。2016年、今年も同じような傾向にあると分析する経済学者もいるのだが。
1980世界経済のネタ帳より

→ 私オカマでした(16)

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